06『芸術公論』第4巻第3号(通巻19号)1987年5月号、佃堅輔 選評
- kujakuhanamasakobl
- 2024年3月10日
- 読了時間: 4分
更新日:2024年6月20日
企画〈人と作品〉

「この道」1987年、油彩
162cm×130cm
(この雑誌掲載画像は発色がよくないので、第3期の当該作品紹介ページをご覧ください。)

「無題」
2019年個展(画廊ぶらんしゅ)に出品されず、所在も不明。

「百合」1986年、油彩
162cm×97cm
2019年個展(画廊ぶらんしゅ)で受付横に展示されたのはこれの姉妹作品で、
これよりも小ぶりな130cm×80cmである。

当該雑誌の左ページ上段で紹介された昌子のデッサン。

「コスモスⅧ」1980年ごろ
91cm×117cm、油彩
2019年ぶらんしゅ個展でサロンに展示された2点のコスモスのうちの1点。
もちろん実物はカラフルである。
【誌面構成上の昌子作品の位置づけ】
前年の1986年までは新進気鋭の注目作家という位置づけであったが、この1986年になると一定の安定的な地位を得たものらしく、一時期の『芸術公論』の中心企画である〈人と作品〉に選定されている。
昌子とともにこれに選ばれているのは、鋳金作家の宮田宏平、彫刻家(塑像)の鈴木基弘、染色作家の十束 敏、日本画家(南画)の南 星山、洋画家の市川加久一、肖像画家の石田閑山、彫刻家(塑像)の森浜盛太、水彩画家の蒲原密雄、写真家の海老原一雄、洋画家の坂井淑子、洋画家の中浜 正、彫刻家(木彫)の山崎玄雲という、当時各界の第一線で活躍していた大家ばかり12名であった(後述するように、ここには裏事情が隠されている)。
〈人と作品〉は、嶋田三郎、水上杏平、樋元秀永、佃 堅輔、倉岡美保子ら美術評論家に見開き2ページが与えられ、1作家を紹介する企画である。
「金子真子」を紹介した見開きの右ページ。カラー。

「金子真子」を紹介したページの左ページ。モノクロ。

デッサンが美術雑誌で紹介されるのは、当時異例のことであった。
選評のアップ

(選評のテキストデータ)
拡がる平原を独占するかのように、一羽の孔雀が、その眼状斑点の華美な羽を地面にひきづりながら、ゆったりと歩く。すると、空から舞い降りてくる白い百合の花が、孔雀の頭上に漂う。
あるいは、花びんに活けられた赤い花や、色とりどりの花が、広々とした風景を背景に収める。
花は風景を呼び、風景は花に寄りそい、孔雀も花にいざなわれて風景のなかに遊ぶ。だが、鳥の本来の美は、羽を拡げて空に羽ばたくときだ。地上にいる孔雀は、夢想のなかの鳥であろう。風景という夢幻的パースペクティヴのなかで、羽の色の美が、羽を拡げさせよう。羽のイメージ、大気空間を飛行するという羽の超越性は、夢想のたのしい心的経験であろう。
孔雀のデッサンは、夢想の世界をかたちづくる覚醒時の確かな技法を示す。いきいきとした描出が印象づける鳥の部分図である。
(文中のゴシック体・下線は金子昌子美術館運営委員会による)
同誌 表紙

同誌 目次見開きの右ページ

同誌 目次見開きの左ページ

その部分のアップ

上述の「隠された」「裏事情」は、この目次に表れている。目次には〈人と作品〉のコーナーがない。しかも、「金子真子」の名は、〈特集 女流が表現する美の世界〉の上段20番目にみえる。「女流」を冠しながら、ここには宮田宏平、鈴木基弘、十束 敏、南 星山、市川加久一、石田閑山、蒲原密雄、中浜 正ら男性作家の名が含まれている。つまりこの目次は未整理の状態なのである。
同誌には、実際に〈特集 女流が表現する美の世界〉というコーナーがあり(188~209ページの22ページ分)、各作家が1ページに2人ずつ計44名が紹介されている。目次に連ねられていた作家たちは、実際の同誌では、
①〈人と作品〉(各界の大家を紹介するコーナー)
②芸術公論賞・日本美術選賞という当該年度の優秀作家の紹介ページ
③〈人物クローズアップ〉という気鋭作家の紹介ページ
に振り分けられているのだが、目次はそれらが未分化の状態を残したまま刊行されたのである。
ここで注目されるのは、昌子が40名超の「女流」の枠(1作家あたり2分の1ページ)を出て、各界の大家と並ぶ〈人と作品〉に抜擢されたことである。その編集過程での混乱ぶりや経過がわかる興味深い事例であるといってよい。
1984年に続いてこの1987年は、昌子(真子)がさらに一段と上昇した年であったと考えられる。
同誌 奥付

奥付のアップ



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